冷たい朝の参謀 朝、起きて顔を洗おうと洗面所の蛇口をひねったら、水が出なかった。 カチッ、という虚しい音が響くだけで、一滴も落ちてこない。一瞬、何が起きたのかわからなかった。頭が寝ぼけているのかと思って、台所へ行ってみる。やはり出ない。 雑文
寿司はさびぬきにかぎる
仕事の合間に書いている、暮らしのエッセーです。犬のこと、家電のこと、古いCDのこと。
冷たい朝の参謀 朝、起きて顔を洗おうと洗面所の蛇口をひねったら、水が出なかった。 カチッ、という虚しい音が響くだけで、一滴も落ちてこない。一瞬、何が起きたのかわからなかった。頭が寝ぼけているのかと思って、台所へ行ってみる。やはり出ない。
寿司は夜更け過ぎに… 世の中は明日がクリスマスイブだといって、なんだかふわふわと浮き足立っている。 街へ出れば赤と緑の装飾が目に痛いし、ラジオからはシャンシャンと鈴の音が鳴り止まない。そんな喧騒をよそに、私はひとり、パソコンの前で妙な熱に浮か
湿度の言い分 デスクに置いてある、安物のデジタル時計には、日付と時刻のほかに、気温と湿度が表示されるようになっている。ここのところ、私の肌はカサカサで、指先なんてささくれだらけだというのに、その時計はすました顔で「湿度五〇%」なんて
赤い宝石と、消えた五万円 学生時代、私はなぜか「探検」などという、いささか泥臭い活動に熱を上げていた。 華やかなキャンパスライフとは無縁の、リュックと寝袋を背負う日々である。東京から自転車で四国まで行って遍路道を走ったり、海外の山でスキーをしたり
鍋焼きうどんとだてまきくん 今日、うちの犬が十七歳になった。 犬の十七歳といえば、人間なら八十代半ばといったところか。もはや立派なご長寿様である。名前は「だてまき」。そう、あのお正月の重箱の端っこで、甘い誘惑を放っている黄色い渦巻き、伊達巻のことだ
耳で読む本とスクワット 本は目で読むものだと、ずっと思い込んで生きてきた。 紙のページを指でめくり、インクの匂いを嗅ぎながら、活字を目で追う。それが読書という行為のすべてであって、それ以外の方法は邪道だくらいに思っていたのである。ところが最近、
七冊の重みと、毎年の儀式 本棚の特等席に、どんと鎮座している七冊の本がある。 北方謙三さんの『史記 武帝紀』だ。 七巻セットである。物理的にもけっこうな重さだし、場所もとる。それでも、これだけは手放せないどころか、なんと毎年一回は必ず引っ張り出し
ヨレヨレの正義 Brooklyn’s Finest たまには昔の映画でも観ようかと、お茶をすすりながら選んだのが二〇〇九年の『クロッシング』という作品である。 原題は『Brooklyn’s Finest』というらしいのだが、どうして日本に入ってくると、こうもタ [&hel
あの町と、ガラケーの中の私 たまの帰省というのは、どうしてこうも普段は開けない場所の掃除から始まるのだろうか。 実家の押し入れの奥、なんだか懐かしいような、それでいてもう忘れてしまったような匂いのする段ボール箱の底から、それは出てきた。昔使っていた
四角い箱と、あの夜のこと。 いつからか、私の暮らしのまわりには、やたらと四角い箱が増えるようになった。 大きさも色もまちまちで、人が一人くらい座れそうな大きなものから、お弁当箱ほどの可愛らしいものまで。 来客はたいてい、「これ、何?」と不思議そうな
お品書きの書き換えどき なんだかこの頃、どうも調子がよろしくない。 台所で、淹れたてのほうじ茶をすすりながら、パソコンの画面をぼんやりと眺める。自分で言うのもなんだけれど、それなりに時間をかけて、コトコトと手間ひまかけて煮込んだ「とっておきの煮
正直な声が聞きたいだけ どうにもこうにも、最近のインターネットというのは、こちらの気持ちを少しもわかってくれないらしい。 事の発端は、十年以上も律儀に働き続けてくれた、我が家の電気ケトルである。少し前から接触が悪くなり、ついにうんともすんとも言
調べものと、私の書斎 なんだか最近、ものを調べるという行為が、すっかり億劫になってしまった。 ほんの数年前までは、何か気になることがあれば、すぐにあの四角い枠に言葉を打ち込んでいたというのに。たとえば、新しく出たお菓子の評判だとか、読み終わっ